第一中学卒業間近、中学三年生の黒岩 大翔(くろいわ はると)は、同じ学年、同じ中学、同じボクシング部の柏木 蓮介(かしわぎ れんすけ)と河川敷で空を眺めながらのんびりしていた。
「なぁ大翔」
「何だ蓮介」
「俺さ、高校入学したらさ、もう不良たちと喧嘩するの辞めようと思ってるんだ」
二人で街にいると、いつも知らないどっかのヤンキーに喧嘩を売られて、その度に二人で返り討ちにしていた。蓮介と大翔で中学三年間の間、数多くのヤンキーたちを返り討ちにしているのだが、蓮介が喧嘩を辞める。と言ったことに対して大翔は驚かなかった。大翔からしたら、恐らくこの話しを切り出してくるだろうと、今日の中学生活最後の授業が終わった時から何となく察してはいた。そして、もし蓮介がこの話をしてこなかったら自分からこの話をしようと、大翔自身が考えていたところだった。
「ははっ、そうだろうと思ったよ。実はさ、俺も高校入ったら喧嘩は辞めようと思ってたんだよ」大翔がそう言ったことに蓮介は驚いて、体を起こして大翔を見た。
「マジで言ってんのか? 大翔のことだから、何でだよ! とか、これからもこのまま続けていくんじゃねーのかよ! とか言って止めてくると思ってたんだが・・・・・・。」
「そんなこと言う訳ないだろ(笑)。俺も高校入ったら喧嘩からは卒業だ。元々高校に入ったら普通に勉強して、普通に過ごそうと思っていたってのもあるしな。元々、喧嘩と離れた普通の学校生活も送ってみたいってのもあったんだ。まぁ、あれだ。何にせよ、いつまでもこんなことばっかしていらんねぇだろ?」
「・・・・・・そうか、まあ、俺もそういう生活送ることにするよ」蓮介はそう言うと、再び仰向けになって空を見上げた。
暫く二人でのんびりと寝そべっていると、今度は大翔から蓮介に話しかけた。
「なあ蓮介、実はさっき柚奈(ゆずな)ちゃんに聞いたんだけど・・・・・・、」大翔はそう言いかけ、喋るのを止めた。
後ろから沢山の人の足音が聞こえてきた。
「大翔、最後の仕事みたいだぞ」蓮介も気付いていたようで、蓮介はそう言うとニヤッと笑い、ポケットに入れてあったマウスピースを口にはめた。大翔はそれを聞き、仰向けのままニヤッと笑った。
「そうみてぇだな。これが俺たちの最後の仕事か。何となく名残惜しさも出てきたけど、それじゃ、最後にやってやりますか! ざっくり・・・・・・五十人くらいかな」大翔はそう言いニヤニヤしながらマウスピースを嵌めた。そして、足音が止まった時、二人は一斉に立ち上がり、殴りかかった。
「やめろ大翔!」蓮介がそう言ったのが聞こえ、一番前にいたヤンキーの胸ぐらを掴んでいた大翔が、殴る寸でのところで手を止めた。
大翔が前を見ると、そこにいたヤンキーたちは全員両手を上げていて、喧嘩をするつもりがない様子だった。大翔は掴んだ手を放し、一歩後ろにいた蓮介のところまで下がった。
「お前らどうした? 俺たちを殺りに来たんじゃないのか?」蓮介がそう言うと、ヤンキーたちは手を下し、一番前にいたリーダー格のヤンキーが話し始めた。
「お前ら二人が、高校に入ったら喧嘩辞めるって聞いたんだ。それで、俺たちもお前らと殺り合うのはこれで最後にしようって決めたんだ。だから、今日は不意打ちなんかしないで本気の二人と戦いたい。最後に俺たちと全力で戦ってくれないか?」ヤンキーたちは腰に指していた金属バッドや鉄パイプ、ポケットに入れていたメリケンサックなど、すべての武器を地面に捨てた。
カラン と音がして、転がってきた鉄パイプを大翔が足で止めた。
「なるほどな」蓮介はそう言い、首をゴキっと鳴らして、軽く腕を伸ばした。
「分かった、相手してやるよ。そんじゃあ、今日はいつもみたいな情けはかけねぇぞ?」大翔はそう言うと、手を肩の位置まで上げて構えた。
一番前にいたヤンキーが頷き、手を肩の位置まで上げて戦う構えを取った。
「行くぞゴルァァァァ!」リーダー格のヤンキーの合図とともに、ヤンキーたちは各々が大声を出し、気合を入れ、一斉に大翔と蓮介に走って襲い掛かってきた。
大翔は、右ストレート、左ジャブをうまく使いながら、ヤンキーたちを寄せ付けないように上手く間合いを取りながら戦っていたが、遠くから走ってきたヤンキーの跳び蹴りを不意に腕で防いだ時に、後ろに吹き飛ばされ、河川敷から下の芝生まで転げ落ちてしまった。
ヤンキーたちの内の一人が、仰向けで倒れている大翔の方に向かって来たのだが、蓮介が河川敷の上から跳び降り、大翔に向かって来ていたヤンキーを後ろから跳び蹴りで吹き飛ばした。そして、すぐさま蓮介は大翔に背を向け、後ろから来るヤンキーたちと戦いだした。
大翔は背中を伸ばし、ボキボキっと背骨を鳴らした。前を見ると、殆どのヤンキーたちが河川敷の上から芝生のところまで降りていて、蓮介に殴りかかっていた。
蓮介はヤンキー一人につき一発のパンチで、一人ずつダウンさせていっていたが、ヤンキーたちの数はまだまだ多く、手こずっているようだった。
大翔は走って、蓮介の周りにいたヤンキー数人に対して跳び蹴りを放って、6~7人近くぶっ飛ばすと、そのままの勢いで、横から何人ものヤンキーに殴りかかり、蓮介と背中合わせに立った。河川敷からは既に全員のヤンキーが降りてきていて、まだ立っていられるヤンキーたち全員で、大翔と蓮介を取り囲んでいる状況になった。ここから主戦場が全員芝生の上になり、大勢のヤンキー対大翔と蓮介の喧嘩は、ヤンキー全員が倒れるか、大翔と蓮介の二人が倒れるまで続くことになる。
二人とヤンキーたちは、ほんの一瞬だけ無音のにらみ合いになり、静まり返った。その一瞬にはもの凄い緊張感があり、誰一人して気を抜いておらず、その一瞬がとても長い時間に感じた。そして、前の方にいたリーダー格のヤンキーの合図とともに、全員が一斉に殴りかかってきた。
「行くぞゴルァァァァ!」
大翔は殴りかかってきたヤンキーのパンチをかわさずに素手でいなして、パンチでカウンターを仕掛け殴り倒す。また、かわして相手の重心が前に来ている状態を利用して、フックのカウンターを入れる。腕で蹴りを防いで回し蹴りのカウンターを頭にヒットさせる。など、喧嘩独自の戦い方、ボクシングならではの戦い方の両方を使って、ヤンキーたちを殴り倒していった。大翔は極力、すべての攻撃を、喧嘩独自の戦い方で、いなしたりかわしたりしながら戦った。
一方蓮介は、基本的に全て腕の一発でKOできるようなパンチをヤンキーたちの顔にヒットさせていき、重たい一撃での攻撃を重視ていた。それに加えて、距離が遠いヤンキーに対しては、前蹴りで顎をぶち抜いて、後ろに吹っ飛ばしてく。
蓮介が一切攻撃をかわさなかったのは、後ろに最高の仲間である大翔がいたからだ。かわした攻撃が後ろに流れないようにする為、安心して後ろを任せる為に、蓮介には絶対に攻撃をかわさない覚悟があった。覚悟の入り方に関しては大翔も同じで、今まで後ろからの攻撃が蓮介に流れたことは一度もない。大翔は、もしヤンキーの攻撃が自分に流れてきたら、その時は蓮介に何かがあった時だけだと思っていて、二人はボクシング部の仲間である以上に、お互いに信頼していて、安心して背中を預けられる絶対的なパートナーでもあった。喧嘩の時に後ろを任せられるのはこいつしかいない。そう言葉にしなくても、二人はそういう関係だった。
スピード重視の大翔と、パワー重視の蓮介が背中合わせで戦っていて、たまに二人が無言で行うスイッチ(入れ替わる)にヤンキーたちは翻弄されていた。
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