「ふざけんな! 俺らはあいつらに手出しするなって言われてんだ! あいつらの喧嘩はあいつらのもんだ、不安になるくらいなら帰れ!」ざわついていたヤンキーたちは黙ってリーダー格の奴を見た。
「見るんだったら黙って見とけ」リーダ格の奴がそう言って二人の試合に目を向け直したので、立ち上がったヤンキーたちは徐々に黙ってその場に座っていき、胡坐をかいた。
腕しか使っていなかった蓮介は少しずつパンチをもらう量が増えていったので、右脚で大翔のガードをしている左腕にハイキックを打ち込んだ。大翔は左腕のガードは常に左の額まで上げている状態(左腕だけアップライトスタイル)だったので、そのハイキックはそのまま左腕でガードができた。
蓮介の奴、やっと本気になったか。
今まで腕しか使っていなかった蓮介が、あえて大翔がガードしていた方の左腕に回し蹴りを放ったことを、大翔は蓮介からのメッセージだという事にすぐ気が付いた。
(今からは本気で戦うって事か、面白くなってきたぜ(笑))
大翔は蓮介を睨みつけながら、ニヤッと笑った。それを見た蓮介は、自分の意思表示が伝わったことが分かったようで、蓮介も大翔を睨みながらニヤッと笑った。そして、蓮介は大翔に向けてもう一度左のハイキックを打った。
大翔はそのまま左腕で防いだが、さっきよりも衝撃がすごく、右側に少し移動した。その一瞬の隙に蓮介はアッパーで大翔を殴り飛ばした。大翔は後ろに数歩よろめいて、バランスを崩したように倒れた。
「あの鼻くそほじっていた野郎の言った通り蓮介には勝てなかったか」
「確かに身長も体重も全然違うもんな、そりゃ勝てねぇか」
「待てお前ら、よく見ろ!」
大翔は十秒以内に立ち上がって一瞬ファイティングポーズを取ると、ペッと口の中の血を地面に吐き捨てた。二回ほど軽く跳ぶと、もう一度、今度はボクシングの構えを取った。今度の大翔の構えは、左腕が額と同じ高さだだが、額より少し前にの位置に拳が来ていて、右腕が胸より少し上の高さになった。さっきまでと比べ、全身の力は抜けていて、攻撃に特化した構えだった。蓮介はそれを見ると、大翔に向かって大きく踏み込んで右ストレートを打ち込んだ。
大翔は蓮介の右ストレートを左手で逸らし(パリング)、左脚で踏み込んでカウンターの右ストレートを蓮介のボディーに打ち込んだ。蓮介自身の踏み込みと、大翔が踏み込んだ分の負荷が大翔のカウンターの威力を高めた渾身の一撃で、それをもろに受けた蓮介は腹を抑えて少し前傾姿勢になった。蓮介の顔が下がったので、大翔は左足で大きく踏み込んで自分の位置を調整し、蓮介の顎に右足で脳天をぶち抜くほどの前蹴りをぶっ放した。すると、蓮介の口からは血が飛び散り、大きく後ろに吹き飛んで倒れた。蓮介も十秒以内に立ち上がり、ファイティングポーズを取ると、口から滴ってきた血を服の袖で拭った。
蓮介はすぐさまローキックを大翔の脚に蹴り込み、今度は前蹴りを大翔の胸に当て、大翔を後ろに押して大翔と距離を取った。
(なるほど、蓮介がこのまま前蹴りで距離を取ってきたら、身長が低くてリーチが劣っている俺は自分の間合いに入ることができないって事か。このままだと蓮介に近付くことすらできない。だったら・・・・・・。)
大翔はバックステップで一歩下がると、蓮介に向かって飛び蹴りをし、無理やり自分の間合いに入った。
蓮介は右腕で飛び蹴りを防ぎ、至近距離にいたので大翔を掴んで膝蹴りをした。
(ヤバい、)そう思った大翔はとっさに蓮介に近づき、蓮介の方を抱えるようにしがみ付いた。
そして、お互い硬直状態になったので、蓮介が大翔の背中をトントンっと叩くと、大翔は手を緩めてクリンチを解除した。
お互い一旦離れると、手を合わせて再び試合を始めた。
「なあ、今の硬直何だったんだ?」
「あれはクリンチだ。試合の流れを変えるために相手を腕で抱えるように押さえつけるんだ。ボクシングの試合だとレフェリーがいるから、試合をいったん止めてお互いを離して試合を再スタートさせるんだ」
「じゃあ大翔の方からクリンチしたから大翔がこの戦いの流れを変えようとしたって事か?」
「まあ、そうだろうな」
蓮介がローキックを打ち込んできたので、大翔は左足を後ろに下げてかわし、蓮介にローキックを打ち返したが、それは蓮介に同じように差しを後ろに下げられ、交わされてしまった。その直後に、大翔は自分の間合いに入るためにすぐに蓮介に飛び蹴りでとびかかった。蓮介はパリングで大翔の跳び蹴りを逸らし、大翔を掴んでもう一度膝蹴りをしたが、今度は大翔がその膝を両手で押さえ、蓮介の足が戻ると同時に右フックを腹に打ち込んだ。
蓮介はさっきのヤンキーたちとの戦いで、腹をポンポンっと触っていた。その事から、既に腹に相当ダメージを負っていることが分かっている。大翔はその隙をついて、蓮介の腹を重点的に攻撃していこうと思っていた。
蓮介は、また少し前傾姿勢になったので、大翔が踏み込んで、右ストレートの大振りを打とうとした時、蓮介の右ストレートが大翔の顔面を捉え、大翔は2メートルほど吹っ飛んで仰向けになって倒れた。
蓮介は口の血をペッと地面に吐きつけると、大翔が十秒以内に立ち上がらなかったのを確認してこう言った。
「俺がもし大翔と同じ体重、同じ体格だったら、間違いなくお前には勝てなかっただろうな」そう言って服の袖で口の血を拭うと、その場に座り、仰向けになって寝そべった。
大翔は寝そべりながらニヒッと笑うとこう言った。
「やっぱ勝てなかったか~」
「お前、俺に勝つつもりだったのか⁉」
「まあな。勝てないだろうとは思っていたけどさ。もちろん勝つつもりでやってたぜ」
「そうか、初めの内は大翔が諦めてくれるのを待っていたんだけどさ、俺もあまりにもらい過ぎて目が覚めたよ。それでも一番いいのをもらっちまったけどな」
二人が仰向けのまま今の戦いの話をしていると、警察のサイレンの音が聞こえ、十台以上のパトカーが停まった。
「あ、お巡りさん来たぞ蓮介」大翔がへらへらしながら体を起こしてそう言ったが、蓮介は体を起こして座ったまま、隣で顔が真っ青になっていて、緊張したように呼吸が少しずつ荒くなっていった。
「どうしたんだよ蓮介、お前らしくねぇじゃんか」
「お前、何でそんなに危機感ねぇんだよ。今は高校も決まってるし、行くジムも決まってんだぞ? 今捕まったら高校入学も取り消しだし、ジムのスカウトだって取り消されちまうかもしれねぇんだぞ!」それを聞き、大翔も気が気じゃなくなった。
「・・・・・・そっか。・・・・・・そっか。に、逃げなきゃ、おい蓮介! 逃げるぞ!」二人は腹や腕を抑えながら立ち上がると、警察と逆の方向に走ろうとした。
しかし、二人に走る力は残っておらず、それどころか蓮介は脚を引きずっていたので、大翔が肩を貸して歩き出した。その時、ヤンキーたちが二人の行く手に立ちはだかった。
「お前ら、そこをどけ! 今はテメェらと遊んでる暇なんてねぇんだよ!」大翔がそう言うと、ヤンキーのリーダー格の奴が真剣な表情で喋りだした。
「俺たちの中にはさ、高校も辞めちまったり、恵まれた家庭に生まれて来なかったりで、グレてヤンキーになっちまった奴らが沢山いるんだよ。それでさ、みんな学校に行かなかったことを後悔してんだ。あの時、ほんの少しだけ我慢して学校に行っていれば、ほんの少しだけ頑張って勉強していれば、今とは別の人生だったのかなってさ。だから、お前らみたいにしっかり自分の夢に向かって頑張ろうとしているやつのことは、応援したくなっちまうもんなんだ」リーダー格の奴は後ろにいるヤンキーたちにこう言った。
「テメェらぁ! 覚悟はできてんだろうな! 死んでもこいつらだけはパクらせんな!」
「分かってらぁ!」
「ぜってぇやらせねぇよ!」
「俺らの意地ってもんを見せてやろうぜ!」ヤンキーたちは各々気合いを入れる声を口にした。リーダー格のヤンキーはそれを聞くとこう叫んだ。
「行くぞテメェらぁぁぁ!」リーダー格のヤンキーのその言葉と同時に、ヤンキーたちは警察に向かって突撃していった。
「・・・・・・あいつら」蓮介はボーっとヤンキーたちを見ていた。
「蓮介ぇぇぇ!」
「す、すまん」二人は肩を抱き合いながらその場を後にした。


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